中医学を学びつつ臨床の現場を見たいと言う私の野望を叶えるため、中国有数の名門校である「上海中医薬大学」へ、1週間の短期留学に行ってまいりました。
一人海外旅行(研修)が初めてかつ、中国語理解度10%以下の状況で一体どの様な研修になったのでしょうか?
今回は上海3日目。
上海中医薬大学付属病院(曙光病院)での病院実習と、人体解剖実習を中心とした内容となります。
なお、人体解剖実習のコーナーは、ややグロテスクな表現がございますので、苦手な方は閲覧をご遠慮下さい。
前回の記事はこちら↓
上海中医薬大学附属病院 曙光病院
上海中医薬大学には8つの附属病院があり、この「曙光病院」は上海中医薬大学から最も近く、総合病院のため規模も相当なものとなります。日本の総合病院と最も違う部分は、伝統医学診療部(東洋医学科)を備えている点です。伝統医学診療部には、鍼灸科、推拿科、康復科等があります。また、西洋医学をする医師達と常に連絡を取り合っているので、レントゲンを撮り終わった直後に鍼灸治療を行うなど、我々日本の鍼灸師としては理想的な環境となっています。
今回の病院実習は、内科、婦人科等の診療風景を見た後、脳卒中患者が居る入院病棟の見学、鍼灸治療室での実習を行いました。
上海中医薬大学には8つの附属病院(龍華病院・岳陽病院・曙光病院・上海市中医病院・普陀病院・上海市中西医結合病院等)が設けられており、合わせて6,300床以上のベットが備えられております。これらの附属病院は毎年延べ1,700万人以上の来院受診者を受けており、中国伝統医学による各種疾病に対する臨床研究1年間に実に177項目以上行っております。また、8つの附属病院それぞれには腫瘤(癌)、胆道病、救急医療、製剤、推拿などの医療レベル向上を目的とした全国診療センターが7つ設けられています。
曙光病院入り口付近の道です。
敷地に入り切らないバイクが路上に溢れています。
中医学を学習するのであれば、この書籍がおすすめです。筆者は有名な兵頭先生です。
内科、婦人科見学
日本と大きく異なる点は、総合病院でありながら診察に脈診と舌診を取り入れている点です。
患者さん一人ひとりにたっぷりと時間をかけて診察し、それぞれ服用する生薬を一つずつ組み合わせていきます。如何にも中医的な診察なので思わず見入ってしまいました。
例えば、日本であれば、「葛根湯」という処方を使う場合、「葛根湯」の番号が書かれたエキス剤を使用しますが、曙光病院の場合は、葛xxグラム、桂皮xxグラム、乾姜xxグラム・・・、冷えが強いので附子xxグラム追加しよう。といった具合に医師が生薬を組み合わせ、オリジナルの処方を作り上げます。まさに熟練の業です。しかも、患者さんは担当医師を自由に選べるので、人気のない(腕が悪い)医師は自然と淘汰されていく事となります。患者さんには良いシステムですが、治療する方としては少々怖いですね。 😎
入院病棟見学(脳血管障害)
パーキンソン病か脳血管障害(脳卒中、脳梗塞、脳出血等)の患者さんの入院病棟を見学したいと申し出たところ、脳血管障害の患者さんがいらっしゃる入院病棟を見せて頂くことになりました。病棟自体は日本の病院と変わりありませんが、驚いた点は、漢方薬の点滴を使用している点でしょうか? これも上で書いたように、患者さんの症状に合わせたオリジナル処方となります。また、リハビリの他に鍼灸治療も行っています。
余談になってしまいますが、曙光病院の教授が宮崎県に滞在していた経験があり、私の中では宮崎といえばYNSA(山元式新頭鍼療法)なので、何気なく話題に出した所、なんとYNSAをご存知でした。しかも、2003年に山元先生の講演を実際に聴きに行ったそうです。このお蔭で、すっかり打ち解ける事ができ、和気あいあい(?)と研修を進めることが出来ました。
すごいぞ、世界のYNSA!!
鍼灸科実習
日本では考えられない数の患者さんが鍼灸治療を受けていました。 🙂
まずは西洋医学的な問診やレントゲンを撮り、問題なければ即鍼灸治療を受けることが出来ます。勿論、保険が適応されます。私が最後に中国鍼を受けたのが10年前なのですが、当時と比べると大分鍼が細くなり、良い意味で日本の鍼治療に近づいています。近づいたとは言っても、鍼管は使いませんし、日本の鍼と比べると太さも長さも1.5倍はあります。なお、衛生面を考慮して全てディスポ鍼(使い捨ての鍼)に切り替わっていました。
実際に現在の中国鍼を使ってみた感想ですが、日本の繊細な鍼と比べると太いので扱いが格段に楽です。刺激が強いので日本の患者さんには中々受け入れられないと思いますが、一部の患者さんには最高の治療法だと思います。
人体解剖実習
耳つぼペアとの楽しい学食ランチタイムを終え、午後は「人体解剖実習」です。
解剖実習はとても人気のあるカリキュラムで、態々解剖実習を行うために訪中するグループも多いと聞き及んでおります。
今だからこそ記事にできますが、実はこの解剖実習、私が研修を計画した段階では不参加の予定でした。というのも、私は国内の大学で何度か解剖見学をした事があり、態々中国に来てまでやる必要はないと感じていたからです。どうせならば、中医学に特化したカリキュラムを組みたいと言うのが数週間前の私の考えでした。
しかしながら、よく話を聞いてみると、「解剖見学」ではなく、「解剖実習」つまり、自分で解剖を行うと言う事が分かったので、今回のカリキュラムに参加した次第でございます。また、最後に国内で解剖見学を行ったのは5年以上前だと思うので、ちょうど良い機会だとも思いました。
さて、上海中医薬大学での解剖実習ですが、想像以上にワイルドでした。 😈
もう、何というか、「えいやー! どりゃーーー!!」という感じです。担当の教授も親切に教えてくれるのですが、「コレガ、シンゾウネ!」的なノリで、色々とカルチャーショックを受けました。
衝撃を受けている場合ではないので、私は献体に感謝しながら真面目に、「えいやー! どりゃーーー!!」を行います。普段は血管の流れや、内蔵の構造を細かく意識したことは無いのですが、今回の実習で細かい走行や働き等を復習することが出来ました。やはり、見ているのと自分で行うのとでは全く違います。間違いなく日本では体験できませんので、今回は本当に良い機会に恵まれました。
仲良く歩く鉏先生とOさんの後ろ姿を御覧ください。まるでドラマのワンシーンですね。
※左に見切れているのがFさんです。
3日目を振り返って
今回の中国短期留学の目標の一つである、「中国の総合病院を見る。」と言うノルマを達成することが出来ました。私は日本の整形外科での勤務経験があるのですが、その違いに驚きの連続でした。上でも書きましたが、西洋医学的な診断の後、即鍼灸治療を施す一連の連携が素晴らしくも羨ましい限りです。
人体解剖実習については、ある程度の経験があるため正直申しまして、得るものは少なかったのですが、昨日の「中医学概論」と同様に、基礎知識の復習と言う意味では、本当に貴重な体験となりました。
次回の4日目は、「推拿病院実習」と「推拿講義、推拿実技」です。
推拿とは中国の伝統的なマッサージで、日本の「あん摩」に該当します。初めは「日本のあん摩マッサージ指圧師の実力を見せつけてやるぜ!」と意気込んでいたのですが、その手法の違いに四苦八苦する事となります。詳細は次回の更新までお待ち下さい。
「上海小南国」でリッチなディナー!
連れて行ってくれた耳つぼペアには感謝です。